新しい名前

少し前から居場所を変え始めた。今のところ誰にもそこを教えていない、嘘、好きな女には話の流れで喋ったけれども。

わたしが選ぶことができなかったものたち、名前、性別、親、家庭環境、生育国、肌の色、瞳の色…それらは殆どがわたしにとっては呪いでしかない。名前は親から与えられる最初の愛情だなんて言ったのは、どこのどいつだっけ?素敵な考えだとは思うけれど、わたしにとっては祝着なんかではなく脈々と受け継がれる呪詛なのだ。それゆえに、わたしはわたしに新しい名前を与えた。その名前はずっと昔からそうだったように、肌にひたりと寄り添った。

性別も服みたいに気分で変えられたらいいのに。

肉の袋として視姦される度に、そんなに欲しいならくれてやると乳房を引き千切って投げつけてやりたくなったことは何回あったか数え切れない。わたしが産まれてしまった国は乳首が浮き出る服を着れば大混乱になる国だ。

わたしだって誰かに挿したいという暴力性だって携えている。男(とされる)の肉体でなければ叶えられないなんてまだ信じていない、願わくば、この女の肉体のままそれが成し遂げられますように。

 

自らに新しい名前を与えた祝福に、刺青を増やした。わたしの右腕にはこう刻まれている。

「近付いてみれば、誰一人まともなひとは居ない」