ビリー・ジョエル

すべてのものに移入してしまうなら、せめてやさしい人になりたい。
自ら背負う重さから有刺鉄線を張りすべてを憎み首を振っても、その鉄線の先は同時に自らを刺す、もがけばもがくほど肉に食い込んでいく。

「刺しても傷付けない言葉が欲しい、愛あるセックスのように」、わたしはずっと、これが欲しかった。けれどもう要らない。愛するものを殺すくらいならば、わたしは言葉さえも棄てよう。

画面の向うの失語症の人はやさしく笑う人だった。素敵な音楽を知っている人だった。捩れた声で絞り出す「ありがとう」は、久しぶりに柔らかい響きを持っていた。