流転する草
「根無し草としてしか生きられない」といつかの友達が書いていた言葉を読んで、わたしもそうだよと心のなかで呟いてから煙草を揉み消して仕事へ行った。
わたしは仕事が嫌いだ。
今の職場は、家から遠いことと、派遣雇用だからいつ職を失うのかとたまに翳ることくらいしか分かりやすく精神へ響く困り事が無い。
わたしにしては珍しく虐められもしないし、仕事もそこそこ覚えてきた。
昼休憩以外の、確約された10分休憩もある。これは、ド観光地にある個人経営の飲食店や歯科医院、はたまた夜のお姉さんとして働いてきた自分にとって初めてのことだ。
それでも仕事が嫌いだ。
苦痛で苦痛で仕方ない。
出来れば家に居て、好きなひととずっとくっついていたい。
その日観た映画の話を、帰ってきた好きなひとに伝えたい。
好きなひとと一緒に食べるご飯を、音楽を流して踊りながら拵えたい。
その日の雨や太陽に、雨や太陽というそれ以上の意味を与えたくない。
「5日間も休んじゃったな」と思いながらタイムカードを見返したら、7日間休んでいた。
仕事の無かった日々はキラキラと煌めいて、生き生きと飛び跳ねる感情は自由で、あんなにも幸福に一瞬で過ぎ去っていた。
残酷だとおもった。
今の職場で働きはじめて、まだ2ヶ月と少ししか経っていないのに「ここに居すぎたな、もう全部棄てたい」と思い始めている。
わたしはいつだってそうだ。
職場で話しかけられることはストレスで、プライベートに関することになればなるほど、窮屈に感じる。
放っておいてください、と思いながら、何にも気付いていない眼を作る。でも人は放っておいてくれない。
みんなどうしてるんだろう。
「みんな」になんて興味無いくせに。
「あなた」にしか興味が無いから、ずっと生きることが大変なくせに。
あなたをあなたとして見ていたら心が壊れてしまう場所に、わたしは明日も行く。