ぬるい幸せがこのまま続きますように

夏の終わりに新しい土地へ引っ越してきた。

そこは住所に「高いところでっせ」という意味を持つ漢字が3つ入っていて(マンション名も入れたら4つだ)、毎日が登山。

家までの長い階段と急な登り坂を進むのにも少しずつ慣れてきている。きっと半年後にはわたしの脛は逞しいことになっているだろう。

 

昼休みにはコーヒーを飲みに行くんです、と告げたら穴場の喫茶店へ案内された。別に頼んでいないけれど、普段世間話などあまりしないと聞いていた人からの誘いだったのですべからく従う。その人は歩く速度が速く、あまり笑わない。

案内してもらった喫茶店は煙草が吸えたので「やるじゃん」と思った。

食事のメニューが皆無だったので「おい」と思った。

それでもその店から出ようとしなかったのは、わたしが不器用な優しさに弱いからだ。案内してくれた彼のことを考えると空腹なんてどうでもいいことだよなあと思いながら3時間ぶりの煙草を吸う。自分の空腹は、多分どうでもいいことなんかではないんだろうな。

 

家に帰ると愛する人が居る。

新しい土地に越してきてから、今日までずっとそうだったようにこれからもきっと基本的にそうなのだろう。

 

昨日風呂を掃除しながらHINTOを聴いていたら「ぬるい幸せがこのまま続きますようように」みたいなことをコウセイが歌ってた。

それは本当にそうだよ。

わたしの異様な人生にこれ以上の刺激なんて別に欲しくないから、願わくば、わたしの大切なひとが健やかに毎日を送れますように。願わくば、わたしがわたしの大切なひとを大切に出来ますように。

 

アーメンアーメン