始発

言葉と自分の抱える呪いや憎しみについてずっと考えていて、もうきっと大丈夫というところに行くまであらゆるSNSをやめようとアプリを全て消していた。
小さなビールを飲みながら仕事から帰ったらポストに手紙が入っていて、開けると青いピアスが出てきた。

「以前、ななこさんがTwitterで"ストロベリームーンを楽しみにしすぎたら謎のネオトーキョーでストロベリームーンを見て、よく分からん親父に弱味を握られあんじゅに青いピアスをプレゼントしてもらい泣くという夢を見た"とつぶやいていた。これは正夢にしなくてはいけないだろう!と青いピアスをGETしたのだが(よく分からん親父はノーサンキューだ)。 あなたの耳で輝く光る青い石を早くこの目で見たいよ。 あなたは美しい夏の人なのに、ついいつも私がぼやぼやしているせいで、一緒にグラスホッパーの杯を交わす機会を逃してしまう。一緒にアブサンを燃やしたいし、スモールライトに行きたいし、公園に行ってピクニックをしてうすいビールでケラケラ笑いたい。また海にも行きたいね。夜の海で建物の光が海に映るのを見て歩きながら煙草を吸って、明るい昼の海でも何もかも忘れて波の間で飛びはねたい。あなたと一緒にしたいことが本当にたくさんあるよ。絶対に会いに行って「この日をください!」と風のようにさらって一日連れ回すんだからな」

わたしは美しい彼女からの言葉を読んで、呪いも憎しみも何も分かっていなかった過去のわたしが見た夢のままに、泣いて泣いて泣いて泣いた。

彼女からもらったピアスを耳に挿れて鏡に自分を映したら、すこし痩せていて、目の下にはクマが出来ていて、それでもずっとずっと綺麗だと思った。憑き物が取れたような、「ボロボロになってく神様になってく君が 透明な銃放つ自由」、どんどん透明になっていって、わたしは神さんに近付いていられるだろうか。

呪いは愛する人へ伝播する、憎しみは自分自身を殺してしまう、「永遠にしないで 透明にしないで 絶対にしないで 好きに壊して」この歌詞にあんなにも泣いてしまう理由、心の奥底に押し込められたわたしが憎しみと呪いで張り裂けそうになっているわたし自身に叫んでいる言葉だったからだった。

「人の根底は変わらないと思う」と告げられ、わたしの根底は何なのか、何がなくなったらわたしじゃなくなるのか、ずっと考えていた。
わたしの根底は、胸に刻んだ蛾だった、世界に夜が満ちて真っ暗になっても光に向かって飛んでいく美しい蛾。忘れていたその事実を、からだごと射抜くような眩い閃光のような輝きでもって、彼はわたしに思い出させてくれた。

魔法は効かず、呪いは解けないのならば、わたしは乾いた武器を持って闘いたいと思う。
湿り気を帯び、憎しみや呪いを伝播させ、刺すべきもの以外すら刺し殺してしまう武器を棄てて、本当の意味で闘える武器を持ちたい。愛するものの尊厳が踏みにじられたときに、毅然と闘えるように。

駅のプラットホームに立っていたら、目に映るすべてが美しく輝いて見えた、こんな景色が見えるのは何年ぶりのことだろう。

人が生きてるって、ちゃんと綺麗だったね。