最終公演

車の助手席に座って柔らかく微笑む、白いニットを着たフワフワの優しい彼女。朝が来たらご飯を作って、煙草なんて吸ったことがなくて、起きてきた旦那さんに笑っておはようを言って泣きはじめた赤ちゃんを抱きしめに急ぐの。
哀しいことがあったり不安になっても静かに大丈夫って言って時を置いて彼をそっとしておいてあげる、脳内を埋める言葉も「悲しい」とか「寂しい」とかありふれた単語くらいで、強いお酒を飲んだり死にそうなロックを聴いたりしなくても眠りにつける。
いつだって柔らかく微笑んでいて、泣く時も男をギョッとさせないくらいに可愛らしく涙を流す、子供が好きで、映画を観ても感想が簡単で、無印良品ジェラートピケが好きで、髪の毛が茶色でふわふわ肩の上で揺れていて、闘わなくても生きてこれたし誰かに護られることが得意で肌に傷を付けずに大人になれた女の子。
そんな女の子に、わたしもなりたかった。誰よりもなりたかった。闘わないと殺されていたから強くなりすぎたし人生に対する熱量が多すぎるから、わたしは人と生きることがまだまだまだまだ下手糞だ、わたしはゴミ、道端で夜の電灯をギラギラ反射させて光るゴミ、誰がゴミなど欲しがるだろう。
わたしが千切れた心を掻き集めて綴るこれも、きっと一番届いて欲しいひとは、読んでいないのだろう。ずっとそう、ずっとそれの繰り返し。