皮膚

夏に始まって夏が終わるころに終わった愛を皮切りにして、わたしの中の恋慕が枯渇した、どうやら途方もない行く末にすべてを出し尽くしたみたいです。
誰をもわたしの琴線には触れず、傷を傷以外のなにかに変えるちからも持たず、わたしはただ変わり映えのない、時にはとても楽しく時にはすこしだけ憂鬱な平和な日々を遣り過ごしながら肉体を己のものとやっと自覚し、その自覚も手伝ってかその瞬間瞬間に生まれた欲望のみを真っ当に充し、対象を持たない寂しさにも襲われず、愛するひとを持たずに生きている。

あの夏のにおいや温度や触り心地が蘇る、柔らかい声が蘇る、こんなにも容易くわたしの琴線は再び震えた、わたしはどうしてこんなにも容易い。
傷を傷とも認識せずに自然と愛おしんでしまうあなたは何て狡く美しいのだろう、決してわたしのものにはならないのだからわたしは再び震えた琴線を見なかったことにして今日も変わり映えのない生活を再びはじめる。
思い出すことはいけない、思い出さない。