料理長の音楽は豚肉の焼ける音だった

自分でも気付かぬうちに、ガキの頃のように人を操ろうとしていたことに気付き愕然としたのが先週の夜。誰もわたしを呼んでくれなかったから、誰よりも巧く笑って美味く鳴いて甘く眉根を顰めることで人を何とか引きつけようとする所作が、あまりにも長けてしまったみたいだ。
多分愛情の示しかたも方向も線も全然基軸が違って、その差異に押し潰されそうになる、新しいルール、もう二度と人を操るな。分からないということに何度も打ちのめされ分かったかも知れないというおめでたい勘違いにきらめいて再び分からないに直面する、わたしは早く人間になりてえだけなんだよ。
分かり合えるなんて到底不可能で、ならばせめて、わたしだけはあなたを分かりたかった。わたしがこんなに毎時間毎時間身を焦がしながら悶え強く願うそれすら容易く目の前で割れた、わたしはあなたの目の前で生きていて、ねえもっとわたしに触って、もっと確かめて、そんなにわたしを朧にしないで、どうして分からないの、どうして分からないの。わたしはどうして分かりたいの。 あなたを分かりたいだなんてそれは多分違くて、わたしはきっと、人間になりたかっただけだ。なにものにも縛られず、当たり前のように目の前で生きている大切な人を信じ、直ぐに愛することが出来る人間に。呪いはまだ解けない。