幼児

わたしからは逃げたくなるよね、分かるよ。わたしだって、わたしから逃げたい。でもわたしからは死ぬまで逃げられないんだ。みんなみんな消えたよ、どこかへ消えた。わたしが「愛してくれ」の言葉のかわりに何度も何度も刺したからだ。

NIRVANAを聴くと「Hello,Hello,How Low?」が「お前なんか死んじまえ」に聴こえる。
「お前なんか別にどうなったっていい」
ねえママ、わたしもだよ。わたしも、わたしなんかどうなったっていいんだ。

愛してくれって言葉だけじゃ足りなかったんだよ。わたしは足りなかった、それだけじゃ駄目だった、言葉は結局言葉でしかない、耳に聞こえても薄くなって消えてゆく、愛してるの言葉だけじゃ足りなかった、抱き締めて貰っても足りなかった、「会いたい」も結局言葉でしかなく、わたしを通り抜けて行くばかりであなた達の姿はこの眼のまえには現れなかった。

掛け替えのない存在の喪失を想像してしまうのは相手の事が信じられないからではない、わたしがわたしを信じられないからだ。

わたしのなかで赤ん坊が泣いている。この空洞はきっとずっと充たされる事がないのだろう。わたしが抱えるしかないのに。

時間は平たく間延びしたテープで、夜は膨張した液体だ。