病気

「だれかを好きになりたくて仕方ないんでしょ」

 
すきすきだいすき超愛してる。寂しがり屋のあいつもわたしの容れ物ばかり触りたがるあいつも離れて自由になって手が掛からないわたしになった瞬間ぐるぐるになり始めたあいつもわたしとどうなりたいとか絶対無いあいつもみんなみんな愛してるよ。
新しい色のマニキュアを塗った。それだけが今日のわたしのお楽しみ。新しい色は夜の色をしていて、乾いた爪を嗅いだらいいにおいがした。わたしはいいにおいがするってだけで気に入ってしまう。あのこの薄暗い部屋で焚くお香は好き。釣った魚は餌を貰えない。
真昼間から部屋のカーテンを閉め切って電気を枕元のオレンジ電灯のみにしたあの部屋で、根っこが明るいひとは自分の明るさと均衡を保つ為に部屋のなかを暗くするのだろうかとぼーっと全裸で考えた。わたしは根っこが暗いから太陽のあるうちは明るい部屋が好きなのだろうか。わたしがこんな部屋に居たら3日で確実に鬱病になる。
 
海にも山にも川にも夜の工場にも行かなかった。ドンキホーテで1時間遊んでトイザらスで遊んだ。
トイザらスで懐かしい玩具を見ながらわたしはこれもあれも欲しかったなあ買ってもらえなかったんだけどと独り言の形を与えて伝え続けた。大人になったわたしはあの頃のわたしにバービーだってアホみたいにでかいぬいぐるみだってプリンセスのドレスだって買ってあげられたのにどれも買ってなんてやらなかった。きらきら夢を光らす玩具を与えずに横にいるこのお尻を叩いたりした。身体を触ったり触られたりして、すぐに消せる黒板にはSEXって書いて笑ったりした。わたしは呆れるくらい大人になってしまっていた。
こちんこちんと手が当たる。繋がれた。一瞬手を繋がれたら、わたしはバカみたいに嬉しくなって、次の瞬間にはもうわんわんと泣き出したくなっていた。その姿は本当に子供のときのわたしと何ら変わっちゃいなかった。
手はすぐに離された。何度かそれを繰り返して、もうそのあと、繋がれることはなかった。
 
わたし、きみの声がどうしたって思い出せないんですけど。
 
だれかを好きになりたくて仕方ないんでしょ。
だれも、わたしに触るな。